第16回 歯が折れた!(Part2 断髄編)

『第3回 歯が折れた!(Part1 抜髄編)』では、歯が折れて歯髄(歯の中の神経や血管)が感染を起こした/感染のリスクが高い時の治療方法について説明させていただきました。

今回は歯が折れて歯髄が露出し、受傷後まだそれほど時間が経っていなく感染のリスクが限りなく低い歯に対しての治療方法について説明させていただきます。

一般的に、飼い主が歯が折れた時に気づくタイミングは

・歯磨きをする時に気づいた

・病院で指摘されて気づいた

などいつ受傷したかわからない事が多いのです。

人では、自分の歯が折れたのはすぐにわかりますが、犬や猫では例え歯が痛くても平気な顔をしてご飯を食べたり生活をしているように見えることが多く、一番近くにいる飼い主でもそれに気づいてあげられる事がとても少ないのです。

つまり、歯が折れて露髄した時に治療する場合の治療として一般的に行われるのは「抜髄」という治療で感染している可能性が高いため全ての歯髄を抜く治療となります。

ただ、さっき歯が折れた、歯を削る治療中に歯髄が露出したなどすぐに治療ができる場合には歯髄の一部を外科的に除去して残った歯根歯髄の生活力と機能を維持させる「断髄」という治療が適応になります。

治療の内容を症例を交えて説明させていただきます。

症例は、11ヶ月齢のゴールデンレトリーバーです。石をくわえて遊んでいたところ下あごの犬歯が折れてしまったという事で来院されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通常、人ではこのような破折・露髄に伴う急性歯髄炎は耐え難いほどの痛みを伴うとされています。

歯髄露出から治療までの経過時間によって治療成功率が以下のように変わると報告されています。

・受傷48時間以内・・・88.2%

・48時間〜1週間以内・・・41.4%

・1週間以上経過・・・23.2%

つまり、受傷後すぐに治療ができれば歯の歯髄の生活力を維持した状態で歯を温存できる可能性が高いという事になります。

この子は、まだ年齢的にも未成熟歯であり歯髄活性が高く、レントゲンの様にその他の異常が認められない事より断髄処置を行うことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

治療として、

・まず外界に露出してしまった神経を下の写真の様にエアタービンというもので除去します。

 

 

 

 

 

 

 

・正常な歯髄に到達するまで象牙質と歯髄を削り、消毒、止血をしたところの写真です。

 

 

 

 

 

 

・その後、MTAセメントと言われる特殊な歯科材料を詰めていきます。

*MTAセメントとは強アルカリであるケイ酸カルシウムを主成分とした新しい材料でカルシウムイオン徐放性があるため、露髄面にデンティンブリッジと言われる歯髄に蓋をする新しい硬組織を作ることを目的に使用されるものになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・MTAセメントをキャリアという器具を使用して拡大した歯髄腔に詰めていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

詰め終わった後、常法通りコンポジットレジンで歯冠修復を行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レントゲン写真がこちらになります。

 

 

 

 

 

 

 

治療はこれで終了ですが、この治療がちゃんと成功しているかどうかは6ヶ月後にレントゲンを撮影して判断する必要があります。

それがこちらのレントゲンになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*処置をした犬歯が少し黒く着色しているのはMTAに含まれる有色鉄酸化物という成分によるものです。(最近では審美性の面からこれらの物質を除いたwhite MTAというものも販売されています。)

レントゲンはわかりやすい様に模式図を作成しましたので、そちらを見ていただければわかると思いますが、治療半年後にはデンティンブリッジが形成され、歯の成長は続いており、歯髄腔も狭くなっています。この所見を持ってまずは治療は成功ということになります。ただ、今後もずっとこの歯が健康という保証は無く、6ヶ月おきに少なくとも3年は定期的なレントゲン検査を行い異常がないかどうか検診を続ける必要があります。

抜歯では無く歯を温存するためにはこの様に専門的な治療が必要にはなりますが、残す事も可能です。若い子は先が長いため、可能であればこの様に破折・露髄を早期発見し治療する事ができればそれが一番だと思います。

今回は、わんちゃんの症例でご報告しましたが、当然猫ちゃんも同様の処置が可能です。

基本的に、この治療は“2歳未満”で、歯が折れて“48時間未満”に治療が可能である場合に限り適応となります。

 

『歯科専門病院だからこそできる治療。確かな医療をペットに、正しい知識を飼い主さまに!』

最後までお読みいただきありがとうございました(^^)/

東京杉並区の荻窪にあり、双子は歯科医師、荻窪ツイン動物病院

荻窪ツイン動物病院 院長 町田健吾